- 2025.10.31
- 特定技能(農業分野)2号の取得要件と対策——耕種農業・畜産農業の実務ガイド

本記事は、耕種農業・畜産農業の現場で特定技能2号を見据えた人材育成と運用設計を進めたい農業経営者・人事ご担当者に向けて、制度の全体像、受験要件、試験対策、日本語力強化、社内の評価・記録・配置の設計までを一体で整理した実務ガイドです。「なぜ必要か」「どう進めるか」をわかりやすく解説いたします。
0. はじめに
本記事は、特定技能2号(農業分野)の取得に向けて、現場で何を準備し、どの順番で実行すればよいかを理解できることを目的としています。対象は、耕種・畜産を営む農業法人や個人経営の皆さま、人事・採用・教育を担当される方を想定しております。
本稿で用いる主な用語は次のとおりです。
・特定技能1号:即戦力人材として現場業務を担う在留資格(通算5年)。
・特定技能2号:熟練人材として長期就労・家族帯同可能な在留資格。(期間上限なし、配偶者・子の帯同可)
・耕種農業:稲作・露地野菜・施設園芸・果樹など
・畜産農業:酪農・肉用牛・養豚・養鶏など
1. 全体像:農業分野の特定技能2号
■位置づけ(熟練技能としての2号/在留の枠組み)
特定技能2号は、工程の要所を担いながら品質・安全・教育を支える中核人材(スペシャリスト人材・マネジメント人材)の受け皿です。在留上限がなく、長期雇用とキャリア形成を見据えた人材設計が可能になります。
1号が「現場の即戦力」であるのに対し、2号は「現場と管理の橋渡し」を担う点が実務上の違いです。
■「2号農業技能測定試験」と実務経験の関係
2号を目指す際は、実務経験(管理者として2年以上、または現場実務3年以上)に加え、2号農業技能測定試験(耕種/畜産)の合格が必要になります。
試験は日本語で出題され、専門用語と漢字の読解負荷が高いため、現場経験だけでは合格が難しいのが現実です。
学科対策と日本語力強化を同時に進めることが必須となります。
■特定技能1号から特定技能2号への移行イメージ
まず、実務ベースで現場管理者を育成していくために、特定技能1号で受け入れた当初から日本語教育・現場知識の教育のケアをしていくことが重要です。2号測定試験の受験に必要な経験年数(2-3年)と受験機会を考えると、あまり時間的猶予がないのが現実です。
写真表示による解説・表示の多言語化・スキル評価・面談記録を整備し、教育補助や安全確認などを適宜実施し、現場経験を目に見える形で積み上げていくことが重要です。
また、日本語教育に関しては、短期間での養成が困難であるため、常日頃からJLPT(日本語能力検定試験)の受験の奨励や、学習状況のチェックを行っていく必要があります。(最低JLPT N3級以上の日本語能力を要します)
そして、経験年数の要件を満たす見込みの半年前頃から、公式テキストを用いた学科対策と語彙(漢字読み)訓練を強化し、受験予約を先に確保して逆算スケジュールで準備すると効果的です。
■その他:特定技能2号(農業分野)の論点
制度として、実務経験3年で受験可能とする現行の要件・制度設計は、熟練・管理の力量を十分に測り切れない可能性があると懸念しています。
当社の私見ではございますが、共生社会の観点からも日本語力(少なくともJLPT N3相当)の要件を試験と並行して確認する仕組みが望ましいと考えており、支援先企業様に所属する外国人スタッフの方々の日本語力の養成に力を入れております。
農業分野の特定技能2号の要件としては現状、緩やかな入り口を設けていますが、受入れ企業は自社基準で「安全・品質・教育が担えるか」を評価・記録で担保することが重要であり、適正かつ厳格に判断する必要があると考えております。
影響が出やすい領域:
①安全衛生(熱中症・農薬・家畜事故)/②品質(選果基準・衛生)/③工程管理(段取り・歩留まり)/④教育・監督(OJT設計)
企業側の基本方針:
評価表・面談記録等を用い、実務・日本語・指導補助の記録を継続的に積み上げる体制を整備する必要あり
2. 取得要件(共通)
■受験資格(実務経験の目安)
受験資格は、管理者として2年以上、または現場実務3年以上の経験が必要となります。
提出書類としては、会社が発行する経歴証明書(在職期間・職務内容・担当工程・役割)と誓約書を全国農業会議所に提出する必要があります。
1.「2号特定技能外国人に求められる実務経験に係る証明書」(様式第1号)
※実務経験を証明する者(事業者)が作成する
2.「誓約書」(様式第2号)
(詳細URL)全国農業会議所 様式・提出先
■2号農業技能測定試験(CBT・日本語・学科中心)
試験はCBT(Computer Based Testing)方式で、日本語の学科問題が中心でございます。専門用語と漢字読解の負荷が高く、語彙・読解の訓練が合否に大きく影響します。
公式学習テキストの精読、用語カード(読み/意味/現場例)、定期的な模擬テストを組み合わせ、弱点分野を継続的に補強する進め方をおすすめします。
(詳細URL)全国農業会議所 2号農業技能測定試験テキスト(ページ末尾にPDFリンクあり)
●日本語力の強化(試験対策のポイント)
- 語彙カード:用語→読み→意味→現場の具体例(例:摘心/肥培管理/泌乳/繁殖)。
- 朝礼クイズ:1分×3問で語彙と安全を確認し、作業前の意識づけを行います。
- 模擬テスト:例えば月1回/30〜40問で到達度を見える化。誤答はその日のうちに復習します。
- N3相当の読解:掲示・取扱説明・作業指示の読解練習で漢字理解度を高めます。
■雇用契約・在留手続の整合
合格後は、2号相当の職務記述(工程要所・教育補助・衛生管理補助など)と在留審査の整合を取る必要があります。
申請様式等は随時更新されますので、申請直前に最新の案内を必ず確認する必要があります。
■関連手続
学習テキスト・試験実施要領・申込方法は、全国農業会議所や試験実施機関(プロメトリック)の案内に従う必要があります。
受験枠が限られる場合があるので、早めの予約が有効です。
(詳細URL)プロメトリック 農業技能測定試験2号
3. 耕種農業:要件の読み方と対策
■試験範囲の把握(作目横断で広く問われます)
2号(耕種)の学科は耕種全般から出題され、現在の就労作目に限定されない点が重要でございます。
露地野菜の方でも稲作のステージや病害虫、施設園芸の環境制御、果樹の剪定概念、農機・安全衛生など横断的に問われます。
出題の幅は広く、公式テキストに沿った全体学習が不可欠です。
■経験証明の整備
経歴証明書(会社発行・指定様式)に在職期間・担当工程(育苗・定植・栽培管理・収穫・選果・出荷)・安全衛生・教育補助を簡潔に記載します。
■試験準備(学習テキスト・演習・受験スケジュール)
全国農業会議所の学習テキスト(耕種)を主教材に、反復読解と定期的な確認テストの実施が有効です。特に専門的な語彙等に関する学習は重点的に行うことが望ましいです。
受験は予約先行で確保し、逆算で学習スケジュールを組んでいただくと、準備漏れを防げます。
●実務教育における配置・役割設計(2号にふさわしい経験の可視化例)
- 工程の要所:段取り・安全確認・品質合否の判断を週替わりで担当
- 教育補助:新人同行、写真表示の説明、OK/NGの口頭テストを担う
- 月次評価:速度・精度・協働・日本語・安全・品質・教育補助を5段階で記録 など
4. 畜産農業:要件の読み方と対策
■試験範囲の把握(畜種横断で広く問われます)
2号(畜産)の学科は畜産全般から出題され、現在就業するの畜種(酪農・肉用牛・養豚・養鶏・養蜂など)に限定されません。防疫・衛生・飼料栄養・繁殖・動物福祉・設備について横断的な理解が求められます。
養鶏の方に牛や豚の基礎が問われる、養牛の方に鶏の密度や換気が問われるなど、幅広い出題に対応できる準備が必要です。
■経験証明の整備
経歴証明書(会社発行・指定芳樹)に、在職期間・担当畜種・工程(給餌・搾乳・衛生・出荷)・教育補助を記載いたします。
■試験準備(学習テキスト・演習・受験スケジュール)
全国農業会議所の学習テキスト(畜種)を主教材に、反復読解と定期的な確認テストの実施が有効です。特に専門的な語彙等に関する学習は重点的に行うことが望ましいです。
受験は予約先行で確保し、逆算で学習スケジュールを組んでいただくと、準備漏れを防げます。
●配置・役割設計(2号にふさわしい経験の可視化例)
- 衛生・防疫:消毒・動線管理・隔離判断・資材管理の担当を設け、記録を残す。
- 教育補助:新人同行、OK/NG写真の説明、ヒヤリ・ハット共有を担う。
- 月次評価:日本語・協働・改善提案・安全・品質を5段階で記録する。 など
5. 1号→2号 育成ロードマップ(耕種/畜産 共通)
育成は、OJT段位(初級→中級→上級)×日本語(N4→N3)の二軸で進めていくことが重要です。
写真表示を用いた解説・評価表・面談記録・日本語隔週のケアを月次で更新し、2号受験の半年前からは2号農業技能測定試験への対策を具体的に進めて行きます。
合格後の役割(工程要所、教育主担当、衛生責任分担)まで見据え、配置を先行設計するとスムーズです。
●記録の残し方(例)
- 評価表:速度・精度・協働・日本語・安全・品質・教育補助を5段階で月次評価
- 写真・動画:OK/NG・作業手順・衛生手順を撮影。キャプションは日本語+母語で表示
- 面談記録:できたこと/困り/次の一歩を短文で記録し、昇給・昇格の根拠とする など
6. 受入れ体制と育成フォロー
日本語教育と2号試験対策は外国人本人は然ることながら、企業側にも相応の負担が発生します。しかし、将来の現場リーダー候補の育成を目指す上においては、避けては通れない部分もあります。
外部の研修システム、登録支援機関等を活用することで、試験対策・日本語学習のフォローを継続すると、現場負担も軽減され、安定した育成が可能となります。
当社((株)FarmON)では日本語教育、2号農業技能測定試験の対策講座の実施サービスも提供しています。お客様のニーズに合わせた設計でのサービス提供が可能となっております。お気軽にご相談ください!
7. 試験スケジュール
試験は実施枠が限られる場合がありますので、学習計画と同時に受験予約を進めてください。不合格時は、語彙不足・分野偏り・読解速度など原因を分析し、次回までの強化ポイントを明確にすることが重要です。
8. 参考資料・一次情報リンク集
- 農林水産省「在留資格『特定技能』(農業分野)」:
https://www.maff.go.jp/j/keiei/foreigner/new.html - 出入国在留管理庁「特定技能制度 概要・手続」:
https://www.moj.go.jp/isa/policies/ssw/ - 出入国在留管理庁「農業分野の特定技能」:
https://www.moj.go.jp/isa/policies/ssw/agriculture.html - 全国農業会議所「2号農業技能測定試験(耕種/畜産)学習テキスト・申込案内」:
https://www.nca.or.jp/
(サイト内「特定技能」関連ページをご確認ください) - Prometric(プロメトリック) 試験予約:
https://www.prometric-jp.com/ - 日本語試験(JFT-Basic/JLPT)公式:
https://www.japan-foundation.jp/ /
https://www.jlpt.jp/
監修・執筆:株式会社FarmON
