- 2025.10.09
- 育成就労制度の最新動向と方向性 —— 特定技能との比較・関係性/登録支援機関の役割

0. はじめに
対象と目的
本ガイドは、外国人材の採用・定着を検討する企業の経営者・人事担当者を対象に、いま議論が進む育成就労制度の要点をわかりやすく整理したものです。制度の骨格、最新の検討状況、既存の特定技能との違い・つながり、そして現場で準備すべき実務ポイントまでを解説します。
用語の確認(育成就労制度/特定技能/登録支援機関)
・育成就労制度:
現行の技能実習に代わる新たな枠組みとして作られた制度(2027年4月1日施行)。「育成(教育)と就労」を両立させ、実務で力を伸ばしながら、将来的にはより高度な在留資格へ進める設計をめざします。
・特定技能:
人手不足分野で即戦力として働ける在留資格。1号は通算5年まで現場中心、2号は在留上限なしで熟練・管理を担える枠(分野ごとに運用)、2号では家族帯同(妻・子)も要件を満たせば可能となる。
・監理支援機関:
監理支援機関とは、2027年4月以降に本格施行される「育成就労法」において新設される、非営利団体です。これまで技能実習制度を担ってきた監理団体に代わるもので、育成就労外国人の育成計画の支援、職業紹介、生活支援、転籍支援などを行う役割を担います。
・登録支援機関:
特定技能の受入企業に代わって、生活立ち上げ、日本語学習の案内、相談・面談、届出支援などを実施する外部機関(出入国在留管理庁への登録が必要)。当社FarmONはこの登録支援機関であり、特定技能人材紹介も行っております。
本記事では、官公庁が公開する公式資料(出入国在留管理庁、厚生労働省、農林水産省など)と、政府の有識者会議資料(令和7年2月開催・資料1)を踏まえて要点を整理しています。
最新の正式決定や細目は、必ず各省庁サイトでご確認ください。
1. 育成就労制度の制度概要
法的根拠と位置づけ
育成就労は、技能実習の課題(転籍の難しさ、目的と実態の乖離、保護の弱さ等)を踏まえ、人材の保護と成長、受入企業の実需を両立させることを狙った新制度です。位置づけとしては、実務を通じて技能を育てる「入口」であり、将来的に特定技能などへの移行が想定されます。これにより、教育・訓練の名の下に実務を担わせるという曖昧さを解消し、就労としての透明性を高める狙いがあります。
受入れ形態(単独型育成就労/監理型育成就労)
検討の方向性として、
・単独型育成就労:
受入企業が主体となって雇用・教育・生活支援までを運用する形。自社の教育能力・管理体制が整っている企業向けです。
・監理型育成就労:
監理支援機関(第三者組織)が育成計画や監督、相談・通報窓口等に関与し、複数企業の受け入れを横断的に支援・監理する形。中小企業が多い地域では、こちらが現実的な選択肢になりやすいでしょう。
いずれも、「教育計画」「就労計画」「生活支援計画」などの書面化・公開が重視され、実務の透明度と検証可能性が求められる方向です。
対象分野・在留期間・転籍
対象分野は、人手不足の深刻さ、技能の客観評価の可能性、受入側の管理体制といった観点で設定が進みます。
制度の目的上、育成就労産業分野については、特定技能と同じ16分野になる可能性が示唆されています。
(技能実習2号移行対象職種・作業(全87職種159作業)のうち、対応する特定産業分野がない(試験免除で特定技能に移行できない)職種・作業は約30%(27職種47作業)である。 )
また、特定技能の受入れ対象分野でありつつも、国内での育成になじまない分野については、育成就労の対象外とするなどの公式文書への記述も見られます。
検討内容については随時変更があると考えられるので、最新情報の確認が必要です。
在留期間については原則最長3年。
段階的(例:1年更新×複数年の通算)を基本に、一定の条件を満たす場合は、転籍が容認されます。
一定要件としては、「同一機関での就労が1年超/技能検定試験基礎級等・日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5等)合格/転籍先機関の適正性(転籍者数等)」を設け、同一業務区分に限るとするような要件が検討されています。
これは、就労者の保護と、受入側の不適切事案の抑止の両面に効果があると考えられます。
技能評価・日本語能力
「育成」がテーマである以上、技能評価の見える化が制度の要です。
・技能評価:
分野ごとに標準化された評価試験への合格(1年目:技能検定基礎級等への合格、3年目:技能検定試験3級への合格)などが必要となる見込み。(技能実習制度とほぼ同様)
・日本語能力:
まず、入国時の日本語能力としては最低限の日本語レベル(JFT-BasicA1/JLPT N5相当)が求められます。
育成就労制度における就労開始後1年経過時には、日本語試験(日本語能力A1相当以上の水準から日本語能力A2※相当以上の水準までの範囲内で分野ごとに設定)の合格が必要です。特定技能1号への移行時には、日本語能力A2相当以上の試験の合格が必要です。
将来の特定技能への移行とも連携し、一定の技能水準に達した者がスムーズに上位制度へ進めるスキームが検討されています。
受入れ企業の責務
受入企業には、適正な労働条件の遵守はもちろん、教育計画の実施・記録、生活支援、相談体制、リスク発生時の初動対応などが求められます。単独型で対応が難しい場合が多いので、外部の監理支援機関の活用を組み合わせましょう。ポイントは、「人を呼ぶ」「働かせる」だけでなく、育て、守り、記録し、評価するという一連の運用を一連の流れで回すことです。
2. 最新動向・今後の方向性
基本方針・分野別運用方針の検討状況
政府の有識者会議資料では、基本方針(制度理念・保護の考え方)と分野別運用(対象分野・評価方法・移行の在り方)が段階的に議論されています。論点は、①就労者の保護と自律、②受入企業側の教育責任と体制、③透明性の高い評価、④違反時の迅速な是正です。いずれも、現行制度(技能実習制度)で指摘された弱点(閉鎖的・不透明・移動の困難)を改善する方向でそろっています。
施行スケジュール・経過措置
施行時期2027年4月1日が予定されていますが、実際の運用は法改正・省令整備のスケジュールに左右されます。
経過措置として、既存の技能実習・特定技能に在留する人材が不利益なく移行できる導線の整備が想定されています。
企業側も、「誰をどの制度のどの段階に位置づけるか」を早めに設計し、募集から在留、育成・評価、移行までを一本の計画に落とし込む必要があります。
評価試験・分野見直しの論点
評価試験は、実務能力を測る項目(安全遵守、速度と精度、品質理解、コミュニケーション基礎)を重視する必要があります。
試験の公平性・実効性と、不正の抑止も重要です。
また、分野の見直しは、地域差・季節変動・災害対応などの要素も踏まえ、国・自治体・業界団体の連携で検討されていく見通しです。
3. 特定技能との比較
対象分野
・育成就労:
教育計画の実効性、評価の整備状況、人手不足の深刻度等を踏まえ分野を設定。入口としての広がりを重視。
・特定技能:
既に分野が定義され、技能試験・日本語要件が整備。即戦力・現場中心の枠組みとして運用されています。
技能水準・日本語水準
・育成就労:
初級→中級→上級の段階設定を基本に、就労しながら育つ前提。基礎日本語+現場スキルの育成が柱。
・特定技能:
分野試験+日本語基礎合格を前提に、即戦力の労働者を想定。熟練技術者・マネジメント層は2号へ移行。
在留期間・更新・家族帯同
・育成就労:
通算期間は最長3年。一定の条件で転籍を容認。家族帯同は原則不可の方向性。
・特定技能:
1号=通算5年、2号=上限なし(一定要件を満たせば家族帯同可)。長期雇用・リーダー育成の柱になりやすい。
受入れ企業の義務・支援体制
・育成就労:教育計画の実施・記録がより重要であり厳格な運用が求められる。単独型/監理型を選択し、監理・相談・通報などの保護の仕組みを強化。
・特定技能:支援計画が必須(事前・生活オリエンテーションの実施、行政関係の手続き同行、定期面談、日本語学習案内等)。登録支援機関への委託が可能。育成就労と比べると緩やかな運用。
4. 両制度の関係性
育成就労制度から特定技能への移行
制度設計の考え方は、育成就労→特定技能という成長の階段です。育成就労段階で技能評価と日本語力を積み上げ、一定の水準に達した人材が特定技能1号へ移行、さらに現場の中核として経験を重ねて2号(熟練・管理)へ進む——この流れが実現すると、企業側は採用・育成・戦力化・長期雇用を一連で描けます。
もちろん、即戦力を確保したいということで、特定技能1号から採用することも可能です。
企業側の管理面を考えると、特定技能1号でスタートする際の運用メリットも大きいので、よく比較した上で判断されることをお勧めします。
技能評価・試験の連携
育成就労の評価試験が特定技能の試験・要件に適合するように制度設計をする必要があります。試験内容が具体的にどのようになるのかはこれからの政府発表等を待つ必要がありますが、現行の技能実習評価試験の流れを汲んだものになる可能性は高いと思われます。
企業・登録支援機関・関係機関の役割分担
・企業:
雇用主としての責任(適正な労働条件、教育・安全衛生、評価・記録、ハラスメント防止)。
・監理支援機関/業界団体:
育成就労における監理・相談の受け皿、実務ノウハウの共有、試験・評価の品質担保。
・登録支援機関:
特定技能制度における生活立ち上げ、日本語学習の導線づくり、面談・記録、自治体連携(多文化共生)、届出支援。
この三位一体で回すと、制度変更があってもスムーズな対応が可能です。
5. 企業の実務ポイント
制度選択の判断基準
「いま必要なのは即戦力か、それとも入口から育てることか」。
・即戦力が優先:
既に整備された試験・分野のもとで動く特定技能が適合。日本語能力も育成就労と比較すると高く導入しやすい。
・長期的に育てる:
育成就労で入口を広げ、評価→移行の階段を設計。
採用の門戸を拡げ、育成段階から携わることで、企業文化の吸収が図りやすいなどのメリットがあります。
就労計画・教育計画・相談体制
・就労計画:
工程を分解し、人数・シフト・必要日本語力・技能要件をわかりやすくすることで業務の分担を最適化できます。
・教育計画:
見本→同行→単独の段階訓練、写真でわかりやすく表示、OK/NGの基準表などビジュアルでわかる表示が良いでしょう。
・相談体制:
週1の短時間面談、多言語の相談カード、ハラスメント相談窓口の設定など。登録支援機関が相談窓口として果たす役割も大きいです。
コンプライアンスと記録管理
雇用契約(多言語でわかりやすく)、給与内訳(控除の根拠の説明)、教育・面談記録、安全教育の受講履歴、評価票などを時系列で残すことが、監査などで効果的です。万が一、問題が起きたときに初動で提出できる記録が、被害の拡大を防ぎ、組織を守ります。
6. 外国人在留資格制度のマクロ潮流と日本の課題
人口動態・人手不足の構造
国内の労働人口は今後も縮小が続きます。高齢化の加速、地域偏在、若年層の流出が重なり、中小企業ほど採用が難しいのが実情です。季節変動や天候リスクがある産業ほど、恒常的な欠員が起きやすくなります。
国際的人材獲得競争と日本の制度改善課題
世界は一律に「移民受け入れに積極的」ではありません。前向きな制度設計で人材を惹きつける国もあれば、副作用への反省から締め付けや見直しを進める国もあります。日本が学ぶべきは「良い点の取り込み」と同時に「負の帰結の予防」です。いくつかの具体例で比較します。
1) カナダ(Express Entry 等)
ポイント制でスキルの可視化、道州の事情に合わせたPNP(州ノミネーション)で地域偏在にも対応。家族帯同や永住への明確なルートが魅力で、人材の長期定着を後押しします。一方、人気の高さは大都市への集中・住宅価格高騰を招き、住宅・医療・教育の公共負担が課題に。
→ 日本は、地域版ルート(自治体・業界の協働)と生活インフラの容量計画をセットで設計する必要があります。
2) ドイツ(熟練労働者移民法)
資格・技能の相互承認を進め、職業教育(デュアル)と連動。ドイツ語教育を政策の柱に据え、職場語学の強化でミスマッチを抑制しています。一方で、難民・移民の急増時には現場受け入れの速度差が露呈し、行政手続の滞留が問題に。
→ 日本は、試験・資格の「接続設計」と現場日本語の公的支援を同時に拡充し、申請処理のボトルネックを継続的に監視・改善していくべきです。
3) シンガポール(EP/S Pass/Work Permit)
賃金フロア、比率規制、スキル基準を細かく管理し、段階的に国民雇用の優先と外国人の質担保を両立。不正対策が厳格で「制度を守るインセンティブ」を設計しています。ただし、急速な規制強化は企業側のコスト上昇と採用難につながる局面も。
→ 日本は、段階的・予見可能な制度更新を徹底し、事前ロードマップを企業へ提示して投資判断を助けるべきです。
4) 韓国(雇用許可制 E-9)
政府主導の一元管理でミスマッチを縮小。試験・配置・宿舎・通訳などをテンプレ化しています。反面、一律運用の硬さや、転職の柔軟性不足が現場の不満や潜在的な離職につながることも。
→ 日本は、分野特性に応じた裁量を確保しつつ、基本の保護水準は全国で下回らない「二層構造」を目指すのが現実的です。
示唆:
・選ばれる条件は「賃金」だけではありません。言語・資格の接続性、家族の帯同・教育環境、住居確保、手続スピード、地域の受入力の総合評価で決まります。
・副作用の予防
外国人材を受け入れていく中で、住宅確保・日本語教育の充実、転籍・相談のしやすさの改善、不正検知と厳格な制度運用が必要であり、より外国人の方々が就労・生活しやすい環境を提供しつつも、厳格な制度運用と不正があった場合には、厳しく取り締まる必要があると考えています。
・日本は短距離走ではなく駅伝方式
育成就労(入口)→特定技能1号(主力)→2号(中核)の接続を滑らかにし、地域別の実情(人口・産業・住宅)を織り込むことで、社会の納得感のある受け入れを目指しています。
地方企業における定着・共生の鍵
定着と共生は、簡単なものではありません。大切なのは、双方向の学びという大前提です。
・外国人が日本語と日本文化を深く知る:
安全・品質・礼儀・時間・近隣配慮といった「職場と社会のルール」を言語化し、背景の意味まで共有する。
・日本人が相手の文化を理解する:
宗教・家族観・食の禁忌・祝祭・コミュニケーション様式(直接/間接)を知り、解釈のズレを前提に考える。
この「双方向の前提」があって初めて、受入の準備や育成の方法論が効きます。抽象から具体へのステップを、以下の三層で描いてみました。(あくまで一例です)
① 価値・態度の層(土台)
・対等性の確認:
雇用契約は「守る・守られる」の一方向ではなく、相互の約束であることを認識することが大切です。
・違いを前提化:
相手を「同化」させるのではなく、共通ルールの中で違いを調整する考え方を共有することが大切です。
・言語の尊重:
日本語を軸にしつつ、母語の橋渡し(写真表示、二言語掲示、通訳)で安全と品質を支えることも重要です。
② 仕組み・制度の層(運用)
・言語と文化の教育:
日本語教育を企業側で支援、日本文化の教育とセットで実施すると、スキルアップだけでなく、外国人と日本人の関係性も向上します。
・関係のハブ:
会社だけで抱えず、登録支援機関・自治体・学校・宗教施設などで一体的に外国人と向き合う体制づくり。
・相談の可視化:
面談・相談・是正のタイムラインを決め、記録で残す。問題は「起きない前提」ではなく、予防と起きた時の準備で差が出る。
③ 現場の実践(日常)
・朝礼は“文化のミーティング”:
安全・品質だけでなく、祝祭・食・宗教の予定も共有。軽い雑談が予防接種になる。
・称賛の習慣化:
Good Jobカードや月次表彰で、努力の可視化を続ける。心理的安全性は日本語力の不足を補う。
・地域とつながる:
町内会・学校・ボランティアと接点をつくる。会社外の「居場所」が、長期定着の実力を決める。
指標づくり(計測できる共生)
・定着率(6・12・24か月)、欠勤・遅刻の推移、面談での課題整理、地域トラブル件数、語学学習の参加率など、数値と記述で追う。改善は記録→共有→是正のループで行うことです。
結局のところ、定着と共生は「相互の学習を仕組みにする」ことです。テンプレを置くだけでなく、土台(価値)→仕組み(制度)→実践(日常)の順序で積み上げると、地域と共生した持続性のある取り組みに変わります。
7. まとめ・次のステップ
自社に合う制度設計の考え方
・1年後、3年後にどのような体制で回していたいかを描くことが大切
・そのゴールから逆算し、育成就労(入口)→特定技能(主力)→2号(中核)の人材ポートフォリオを設計。
・就労計画・教育計画・生活支援・評価・記録を年次で回す運用に落とし込む。
・登録支援機関や自治体のリソースをフル活用し、企業だけで抱え込まない。
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監修・執筆:株式会社FarmON
