- 2025.09.16
- 農畜産業界の人手不足と5年後の予測──特定技能外国人材活用による解決策
日本の農畜産業界では人手不足が構造化し、基幹人材は直近4年で約25万人減、平均年齢は約69歳となっており、年々人材確保が難しくなっています。このペースが続けば5年後には15〜35万人減の現実的なシナリオも想定される中、本稿では、数字で状況を把握しつつ、特定技能を核にした外国人材の受入れと、最短で戦力化するための育成に関するガイド記事を掲載します。

この記事を読んでわかること
- ☑現在の農畜産業分野における人手不足の全体像把握
- ☑5年先の労働力を3つのシナリオ(保守/トレンド/悪化)で予測
- ☑特定技能(在留資格)を農畜産分野で活用するうえでの要点が整理
- ☑特定技能外国人(1号)の受入れステップ
- ☑現場で起きがちな成功例/失敗例を、実際の事象ベースでご紹介
- ☑経営・現場の悩みに即したQ&A
●農畜産分野における労働力の現状
まずは農畜産業界の人手不足を、状況整理すると以下の通りとなっています。
| 指標 | 直近の状況 | 現場での出来事 |
|---|---|---|
| 基幹的農業従事者 | 約111万人 | 4年で-約25万人。欠員の恒常化 |
| 平均年齢 | 約69歳(65歳以上が大半) | ピーク作業の人繰りが最難関 |
| 新規就農 | 年間4万人台 | 若手の補充だけでは不足を埋められない |
| 有効求人倍率 | 全国1.2倍前後(地方で1.5倍超も) | 採用より定着設計がカギ |
※数値は公表統計の概況からの規模感です。地域・品目・季節で変動します。
●5年後の人数予測:3つのシナリオ
直近の減少(4年で-約25万人)を延長した試算です。中期計画・設備投資・雇用計画の前提に活用できます。
| シナリオ | 年平均減少 | 5年後の状況 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 保守(改善) | -3万人/年 | 約96万人 | 自動化+受入拡大が前提 |
| トレンド | -5万人/年 | 約81万人 | 現状の減少ペースが続く |
| 悪化 | -6万人/年 | 約75万人 | 高齢化・離職が重なる |
農畜産分野における不足は繁忙期に集中します。だからこそ、工程の標準化と人材配置設計(日本人・外国人・短期・長期の最適化)を同時に進めることが重要です。
●特定技能(在留資格)の要点
特定技能は、技能試験と日本語(JFT-Basic/JLPT等)で能力が確認された即戦力の外国人材が就労できる在留資格です。農業では特定技能1号が中心(在留通算5年)。雇用は原則:直接雇用で、受入企業は生活・就業の支援計画(空港送迎、住居確保、相談・通訳、日本語学習機会など)を実施します(登録支援機関へ委託可)。
| 項目 | 特定技能1号(農業) | 特定技能2号 |
|---|---|---|
| 在留 | 通算5年まで | 上限なし(熟練・家族帯同可) |
| 雇用 | 直接雇用が原則 | 管理・熟練工程まで可(分野による) |
| 支援計画 | 生活・就業支援を企業が実施(委託可) | 2号は自立が前提で簡素 |
運用の実際では、1号=即戦力の入口、2号=中核人材の柱という役割分担が有効です。1号を計画的に受け入れ、SOPと評価制度で育成・選抜を行い、熟練領域(機械・衛生・工程管理)へ段階的にシフトします。
●受入れの流れ
「複雑そう」「日本語が不安」──最初の外国人材受け入れは不安だらけなのが実際だと思います。特定技能外国人材受け入れに向けた流れを簡単に示します。
(※詳細はお問合せください)
◆① 職務定義の明確化
どのような作業を任せるのか?を明確化します。該当作業は特定技能制度のルールと適合するものかを確認します。
◆② 受入体制の整備(責任者・指導・相談)
受入責任者/指導担当/相談窓口を設定。支援体制を明確化します。
◆③ 採用選考と在留資格申請手続き
入社希望日から逆算して、求人票を掲載、その後、採用選考を実施。本人が内定承諾し次第、順次、在留資格申請諸手続きへ移行します。
◆④ 受入整備と入社手続き
社宅・職場環境の受入れ整備、役所手続(転入・マイナンバーカードの発行手続き等)の実施、入社手続き等、実施内容は多岐に渡ります。雇用条件など入社時に誤解がないように母国語通訳も含め、丁寧な説明が必要です。
◆⑤育成
安全・衛生ルール順守の徹底、現場での作業スキルの向上など、優先順位を決め、育成していく必要があります。写真・動画の正解例で「合格ライン」を共有したり、適宜面談を実施するなどするとわかりやすく、技能定着も図りやすいでしょう。
●現場で起きた「成功」と「失敗」
◆成功:写真が“共通言語”になった選果ライン
施設野菜の選果ライン。新人が増えるたびに「この曲がりはOK?」「ここまでの傷はNG?」が都度確認になり、ラインが止まりがちでした。現場は「説明したつもり」、新人は「聞いたつもり」。対策として、写真のOK/NG集を壁に貼り、情報共有を図りました。結果、言語が違っても一目で合意が取れるようになり、“迷いで止まる”時間が消え、ミスも減少しました。写真には二言語(日本語+母語)でキャプションを付けることでわかりやすくしました。「OK=浅い擦れ・3mm未満」「NG=果梗部の裂け」など、合格ラインが一枚で伝わる形にすると、判断基準が標準化され時短とミス低減につながります。
◆失敗:採用が先、生活設計が後——早期離職の連鎖
「人がいないから、とにかく採ろう」で始めたケース。到着翌週から繁忙に入り、社宅の鍵受け渡し・役所手続・通勤手段が後回しに。生活不安が溜まり、“連絡が取りづらくなる”→“遅刻・欠勤”→“相互不信”の悪循環に陥りました。改善はシンプルで、到着から3日間は「生活準備期間」をとし、就業は軽作業に限定。給与の内訳票(多言語)を手渡して控えを共有し、病院・買い物・緊急連絡先も紙1枚で可視化。“働ける前提を整える”ことが、結局いちばん速い道でした。
Q&A(実務における質問と回答)
Q. どの作業から任せると失敗しにくい?
A. まずは、反復工程(収穫・選果・洗浄・給餌・清掃)からスタートするのが良いです。作業内容のマニュアル化、写真での掲示、母国語での注意表示などを実施するとミスの軽減、育成スピードの向上につながります。(こういった内容のサポートも登録支援機関で支援可能です)
Q. 日本語が苦手な人でも安全教育は可能?
A. 指差し呼称+復唱、危険個所の色分け、写真での表示等で事故は防げます。危険区域は赤、要注意は黄、OK動線は緑で床・札・容器を統一。色だけで判断できる状態にすると誰でも一目でわかります。
Q. 給与や費用の誤解を防ぐには?
A. 着任時に雇用条件書や雇用契約書(多言語)を渡し、控えを双方保存。控除項目の根拠(社宅・光熱・保険など)を母国語(通訳同席での説明がベター)および写真付き等で詳細に説明しておくと、トラブル回避できます。
Q. “派遣で”受け入れたいのですが?
A. 農業分野の特定技能は原則「直接雇用」ですが、派遣も可能となっています。派遣での受入れの場合をする場合は、入管法および派遣法に基づき法令を遵守した受入・運用が必須です。(場合によっては作業委託なども可能な場合があります。)
Q. 採用数は何人からが現実的?
A. 最初は2〜3人程度が無理がないでしょう。工程が多い場合は1ライン=2人でシフトを回すと、休みや急な体調不良にも対応できます。また、先輩スタッフがある程度育った段階で、採用を実施すれば、以降の導入・育成がスムーズです。
Q. 離職防止はどのようにすればよい?
A. 基本的には日本人と同様ですが、密なコミュニケーションとサポートが大切です。例えば、週1回の1on1での面談、生活(住居・通院)のサポート、仕事(評価・昇給)の共有など、不安を常に払拭できる体制が望ましいです。登録支援機関をうまく活用して実施することで、対応の質を高め、労力を軽減することができます。
Q. 品質・歩留などに関する教育はどのように実施するのが良いか?
A. 写真での説明に加え、「数値化・言語化された合格ラインの提示」をするとわかりやすくなります。例:形状は“楕円OK/尖りNG”、色は“薄緑OK/黄変NG”など、採点基準を短文で添え、母国語での表記も加えると育成スピードがアップします。
Q. 2号(熟練)まで育てられる?
A. 可能です。早期に技能レベル、日本語レベル、就業姿勢等の目標設定を明確化し、提示することが望ましいです。通常作業に従事させつつ、徐々に管理的業務を任せるなどして、目標共有と管理実務の実践をOJTで行っていくことが大切です。
Q. 近隣・地域との関係づくりは?
A. 地域社会とのコミュニケーション、ルールやマナー順守の徹底をすることがなによりも重要です。日本で働き、生活していく上では、日本の文化・ルールを守ることが大前提です。例えば、ゴミ分別・自転車マナーのルールなどの教育を徹底し、二言語(日本語+母国語)で掲示したり、地域のお祭りなどのイベントへの参加を促す(一緒に参加するなど)と地域社会への親和度も上がり、トラブルの発生などを未然に防ぐことに繋がります。
Q. 労災リスクにどう備える?
A. 昨今は災害などによる労災リスクが非常に高くなっています。労災の発生は、場合によっては特定技能での外国人の受入れに影響するケースもあります。例えば、熱中症対策として、作業を短サイクル化し、WBGTの掲示と休憩ルール(冷却・水分・塩分)等を徹底。豪雨時は「作業中止の目安」を数値で決め明確化することで、労災リスクを低減することが可能です。
●費用・期間と回収の考え方
初期費用は“人を呼び、住めて、働けるまで”の総額で押さえるとブレません。下表は一般的なレンジです。導入効果は欠員率の低下と歩留・品質の安定で回収します。
| 項目 | 目安 | ポイント |
|---|---|---|
| 導入期間 | 3〜6か月 | 候補国・試験・渡航手続で前後 |
| 初期費用 | 数十万円/人(渡航・備品・社宅等) | 内訳と負担の明文化でトラブル防止 |
| その他コスト | 通訳・役所同行・移動・日用品など | 登録支援機関への委託により安全かつ省力的に対応可能 |
出典(公式):
・農林水産省「農業労働力に関する統計」
・厚生労働省「一般職業紹介状況」
・出入国在留管理庁「特定技能在留外国人数」
※本記事の数値は直近公表の規模感を示すもので、地域・品目・年度で差があります。実務では最新資料をご確認ください。
