- 2025.09.21
- 特定技能2号で「リーダー」を育てる──農畜産・食品製造分野における実装ガイド
作業スタッフの雇用だけでは現場は成り立ちません。ポイントは特定技能2号までのキャリアステップを描き、外国人材を「現場リーダー」に育てることです。本稿は、農畜産・食品製造で使えるキャリア設計の考え方と、採用から育成までの流れを解説します。

この記事でわかること
●現場に必要なリーダーとは?
作業スタッフの欠員は埋まっても、それを管理する管理者がいなければ生産ライン、現場は動かせません。工程を回す人、注意喚起をする人、判断を決める人がいないと、現場を回していくことはできず、多くの現場ではこれが悩みの種となっています。特定技能で人材を入れても、指揮の位置が空いたままでは現場を動かせないのです。ここでの特定技能1号で作業スタッフほ確保しつつ、現場をマネージメントするリーダーの育成(特定技能2号人材の育成)が今後ますます重要となってきます。
●将来像・ロードマップ
5年先に必要なのは、経験者の安定配置と、工程横断で動ける現場リーダー層です。特定技能2号は在留期間の上限がなく、家族帯同も可能なため、定着の核になります。全員を2号にする必要はありません。数名を「職長候補」として育成し、言語・安全・品質でチームを束ねる役割を任せます。採用の入口から、昇級・権限移譲までの道筋を描くことで、離職率の低減、現場生産性の向上が見込めます。
●制度の要点(1号/2号/運用)
特定技能は、技能水準と日本語の基礎を確認した即戦力の在留資格です。農業・食品製造では主に1号で採用し、熟練・監督補助のポジションを担う人材は2号で長期雇用を目指します。雇用は直接雇用が原則で、生活・就業の支援計画は自社実施または登録支援機関へ委託できます。賃金・労働時間・安全衛生は日本人と同等以上を前提とし、控除は内訳を明示しながら説明します。
| 項目 | 特定技能1号 | 特定技能2号 |
|---|---|---|
| 在留期間 | 通算5年まで | 上限なし(家族帯同可/分野限定) |
| 役割の想定 | 標準作業の遂行 | 熟練・監督補助・部下育成 |
| 支援計画 | 企業実施/登録支援機関へ委託可 | 自立前提で最低限の実施 |
| 日本語 | JFT-Basic/JLPT N4 相当 | 現場の専門用語+安全指示の理解 |
制度運用は通知で更新されます。最新情報は出入国在留管理庁などの公式サイトで必ず確認しましょう。迷ったら、まず「直接雇用の原則」「支援計画の実装」「給与内訳の透明化」で整えます。
●導入のながれ
ここでは、入社後から現場リーダーの育成までの流れを簡単に説明します。
◆① 要件定義(役割・人数・時期・日本語)
職長候補に任せる業務・工程を文書等で定義し、育成期間を決めます。日本語だけでなく母語でのサポートも実施し、育成します。(登録支援機関のサポートを受けることで育成に専念できます)
- 役割や担当業務の明確化し、OJTを実施しつつ、本人への意識づけを行っていきます
- 最初は1工程・部署に1名の候補を選定し、集中的にトレーニングするのが良いでしょう(他の外国人スタッフとの関係性にも配慮する必要があります)
- 日本語力については、JLPT,JFT-Basic等で実力測定(現場リーダーであれば最低N3以上、できればN2以上が望ましい)
◆② 体制設計(責任者・指導・相談)
育成を担当する専任の担当者を配置できるのであればその方が望ましいでしょう。適宜相談に応じ、ケアしていきます。
- 指導担当者:育成責任者として担当者を設置
- 週次1on1の面談実施するなどして適宜ケア
◆③ OJT(見本→同行→単独)+写真などを活用した説明
OJTと並行して、OK/NG写真に短い言葉を添え、合格ラインを可視化します。
- 写真などの表示:母語も併せて表記してあるとベター
◆④評価・昇給・キャリア(2号を視野)
技能×日本語×安全で評価表を作り、昇給テーブルを公開します。サブリーダー挑戦の枠を設け、2号で長期運用する人材を明確にします。役割と権限は明確にしておくことが望ましいでしょう。
育成サポートはFarmONのサービスで対応可能です。
●成功と失敗(現場の事象)
◆成功事例:停止の合図を決めたら、歩留まりが戻った
食肉加工のラインで、異物疑いのたびにラインが止まり、責任の所在が曖昧でした。写真表示に「停止合図」を追加し、リーダー候補が判断。停止合図は誰でも出せるが、解除は職長のみ。翌週から停止時間が半分に減りました。合図と言葉を決めるだけで、現場の生産性は向上します。
◆失敗:昇給の基準が見えず、主力スタッフが転職した
作業はできても、昇給の理由が曖昧で、努力が報われないと感じた主力スタッフが退職しました。対策として、評価表を作り、雇用条件の確認のための面談も実施しました。日本語・安全・教育の三つの貢献が評価されると示しただけで、離職率が減少し、新人の育ちも速くなりました。
● Q&A
Q. 2号育成は何人から始めるべき?
A. 最初はライン当たり1名~で十分です。教える側の余力を残し、リーダー候補生に伴走しながら指導するのが良いでしょう。モデルケースができた後は、複数人に増やしていくのも良いでしょう。
Q. 日本語が苦手だと現場リーダーは無理?
A. 現場リーダーとして状況を理解し、指示を正確に出すためには、最低でもJLPT N3以上、可能であればN2以上の日本語力が必要だと思われます。
Q. 2号の対象外分野ならどうする?
A. とりあえず、仮に現在の対象分野に2号がなかったとしても、1号の期間中に育成し、将来の制度変更に備えます。
情勢的に考えれば、徐々に2号の対象範囲も拡大するものと考えられます。
Q. 宗教配慮はどこまで?
A. 礼拝の時間・場所の確保や、食べれないもの(例えば、イスラム教なら豚など)を事前に確認・共有することが大切です。
現場の安全・品質を損なわない形で現場の理解、本人の理解を得ながら柔軟に運用します。
Q. 事故(労災)が怖い。教育はどこからはじめればよいか?
A. 危険箇所の写真を表示したり、色で危険個所を容易に認識できるようにするなどの対策が重要です。定期的な面談実施の際に、注意点について通訳等を交えて本人に正確に伝えることも重要です。
Q. 外国人材の国内採用と海外採用、どちらがよい?
A. どちらもメリット・デメリットはあります。一概には言えませんが、国内在留者の場合、入社までの期間が短いですが、定着率が低い傾向にあります。海外採用の場合、入社までの期間は長いですが、定着率が高い傾向にあります。(繰り返しますが、ケースバイケースです)
Q. 特定技能2号の支援計画は自社?委託?
A.特定技能2号の場合は義務的支援の対象から外れますので、支援計画は不要です。とはいえ、現実には多少のサポートは必要です。基本的には支援は登録支援機関に任せ、受入企業様は自社の事業に徹するパターンが多いです。
●費用・期間と回収
費用は「採用・居住環境の整備・支援」の3点で見ます。初期は現金が出ますが、停止時間の減少、品質の安定、欠員率の低下で回収します。
| 項目 | 目安 | ポイント |
|---|---|---|
| 導入期間 | 3〜6か月(在留手続・渡航) | 繁忙期から逆算、国内在留者と併走 |
| 初期費用 | 数十万円/人(採用コスト・渡航費・住宅準備費用 等) | 誤解を防ぐ |
| 支援費用 |
役所・通訳・移動・日用品(登録支援機関へ委託可能) |
支援計画に織り込み固定化する |
出典(公式・一次情報):
